今、市場を取り巻く環境の変化によって、これまでにない新しい商品やサービスが注目されています。
これから新たなチャレンジをする会社にとって、お客様に知ってもらい、選んでもらうために重要なことは、いかにお客様から早く、大きな信頼を得られるかです。

今回は、お客様からの信頼を獲得するために大切な、ブランドイメージと、イメージをデザインするのに重要なブランドステートメント(宣言)について解説していきたいと思います。

どんな会社にもブランドイメージは存在している

人は、何か商品を買ったり、サービスを受けたりする際に、「この商品を買って後悔しないだろうか?」「サービスが自分に合うだろうか?」と言ったリスクを考えます。
心理学でリスク認知と呼ばれますが、この時に意識されるのがそのブランドが持つイメージです。

ブランドイメージというものは、すべての会社にすでに存在しています。

人は会社の名前を目にしたり、ロゴを見たりすると、それが都心の大企業か地方の中小企業かに関わらず、これまでの体験や情報からその会社のイメージや評判を思い浮かべます。

人々が持つイメージというのは、会社が意図しているものもあれば、不祥事を起こした会社や有名人に対するイメージのように、全く意図していないものもあります。

人は無意識のうちに、そのイメージによってあらゆるブランドを選択しています。
コンビニでミネラルウォーターを買うときでさえ、瞬時にブランドイメージは頭に浮かぶものです。

本来、ミネラルウォーターには、会社によって味わいや口当たりを左右する硬度、採水地、ミネラル成分、pH値と様々な違いがあります。

しかし、それら店頭に並んでいる全ての商品を吟味して購入する人は中々いません。

コンビニでは、80%の人が5分以内で買い物を終えているそうです。
5分以内に購入する商品を選び、レジでの会計を済ませているということですが、恐らく、数ある会社から販売されているミネラルウォーターを選ぶのに費やす時間はほんの数秒でしょう。

その瞬時の判断に影響しているのがブランドイメージなのです。


「自社のことは自分たちが一番分かっている」という思い込み

自社の持つブランドイメージは、自分たちがコントロールできていると思いがちです。
しかし、「自社の強みはこれだ」と会社が考えていることと、お客様が「この会社の魅力はここだ」と感じていることは、大抵ズレています。

会社側は自社の強みがフレンドリーな接客や、品揃えだと考えていても、実際にお客様にヒアリング調査をしてみると、「家から近くて便利」、「空いていて便利」といった利便性に魅力を感じていたりします。

自社がどれだけ、「私たちはお客様第一で親切な接客をします」とか、「新しいライフスタイルを提案します」といった自分たちの考えをアピールしても、お客様が「求めているのはそこじゃない」と感じているとしたらブランドへのイメージはギャップがあるということになります。

この自社とお客様の間に発生するギャップは、ビジネスの世界だけに見られることではありません。

私たちの日常で、家族や友人とのコミュニケーションも同様に、コミュニケーションがあるところには必ず、伝える側と受ける側が存在し、両者の間のギャップをいかに埋めることができるかというのが関係構築の鍵となるのです。

「自分が考えていることは正しいのだから、周りに理解されて当然」という姿勢で話をし続ける人が、受け取る側の興味・関心や知識レベルなど大きく差が開いてしまう、いわゆる”痛い人”は、日常の人間関係と同じく、ブランディングにおいても同じコミュニケーションの失敗によって生み出されてしまうのです。

伝えたいことは伝わらないという前提に立つことが、強力なブランドイメージをつくることにおいてスタート地点となるのです。

社内でさえ、ブランドイメージにはギャップがある

イメージのギャップというものは、会社とお客様の間にのみ発生するのではありません。
伝える側の内部、つまり社内でもギャップは発生しています。

例として、よくあるケースを挙げてみます。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
トレーニングジムを運営するX社では、宣伝用のパンフレットを作ることになりました。
制作を担当することになったのは、AさんとBさんの2名です。
Aさんは、自分たちの会社は「業界でもっとも高級感のある設備やサービスの提供」が魅力だと考えており、Bさんは、「お客様を大切にする、フレンドリーなサービスの提供」が魅力だと考えていました。

パンフレットのデザインを決めるにあたり、Aさんは、ラグジュアリーな世界観をアピールするために、制作会社に「黒を基調としたデザインで、高級感のある用紙を使ったパンフレット」を依頼したいと考えました。

一方、Bさんは、フレンドリーなサービスをアピールするために、「オレンジを基調としたデザインで、笑顔溢れる写真を多く使ったパンフレット」を依頼したいと考えました。

AさんとBさんはお互いの意見を出し合い、出来上がったのは、黒を基調とした色使いに、老若男女のモデルが起用されたもので、コストの安い用紙を使ったパンフレットでした。

高級感やフレンドリーさ等、考えられる自社の特徴をふんだんに盛り込んだ結果、お客様にとってイメージしづらいものが出来上がってしまったのです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

こうした、努力した結果分かりづらいものが出来上がるのは、社員のミスではなく、ブランド活動の軸となる、立ち返る場所が無いためです。

ブランドとしてお客様にイメージを伝えるためには、分かりやすさが非常に重要な要素となりますが、一貫性がないことによって、分かりづらく、伝わらないコミュニケーションとなってしまうのです。

先ほどのパンフレットであれば、高級感を伝えたいのに使われている用紙が安っぽい、フレンドリーさを伝えたいのに配色が暗いというのがまさに一貫性のなさによる分かりづらさなのです。

ブランドが立ち返る場所を持っておく

自分たちが相手にどのように認識されたいのか、ブランドイメージをデザインするために立ち返る場所を決めておくことが重要です。

立ち返る場所というのは、自分たちがなぜ活動するのかという”存在意義”のようなものです。
強力なブランドイメージを構築するために、自分達は何者で、何のためにそれをするのかを言葉で明確にしておくことで、一貫性のあるコミュニケーションが可能となります。
一貫性のあるコミュニケーションは、市場での地位を確立し、ファンの心を掴むことにつながるのです。

言葉で明確にしておく方法としては、アメリカでは、目的やミッション(使命)として表されることが一般的です。
他にも会社の事業内容や規模よってバリュー(価値観)、ビジョン等を作成することもあります。

日本では、社是・社訓・経営理念という形で定義されることがありますが、「お客様から信頼される」「誠実な企業になる」などといった、実際の日常的なブランド活動の判断基準としては、少々連動させづらい表現が多く使われている印象があります。

では、実際にどのようにブランドが立ち返る場所を言葉で表現するのかについて、次回、事例を用いて解説していきたいと思います。(後編へ続く)