商品計画が「あの人」にしか分からない
──属人化した発注判断を、組織のルールに変える手順
発注量を決めているのは、20年商品を見てきたベテランの頭の中。本人がいれば回るが、休むと決まらない。後任を付けても「感覚だから」と育たず、「あの人が辞めたらどうするのか」という不安だけが年々大きくなる──。この属人化の解消を「マニュアルを書かせること」だと考えているなら、その取り組みはほぼ確実に失敗します。本稿では、属人化の本当の正体と、判断を個人から組織のルールに移す実際の3つの手順を解説します。
属人化の正体──本人の問題ではなく、組織の問題
属人化は「本人が知識を抱え込んでいる」から起きるのではありません。組織が、判断をルールに変える場を持っていないから起きます。証拠に、当のベテラン本人も、自分が何を見てどう決めているかを正確には説明できないのが普通です。判断の大半は言語化されないまま経験の中に沈んでおり、本人にとっても暗黙知です。だから「マニュアルを書いておいて」という指示は構造的に機能しません──本人が書けるのは作業の手順であって、判断の基準ではないからです。
属人化を放置するコストは、退職リスクだけではありません。判断が一人に集中している組織では、その人の処理能力が需給判断全体のボトルネックになり、判断の遅れ──在庫と欠品の両方を生む遅れ──が常態化します。
手順①──判断の棚卸しは「直近の実例」から逆算する
本人に「どうやって判断していますか」と聞いてはいけません。返ってくるのは一般論だけです。代わりに、直近の実際の判断を10〜20件──追加発注した/しなかった、投入を増やした/止めた──取り出し、1件ずつ「このとき、どの数字を見たか。いくつだったら逆の判断をしたか」を一緒に遡ります。判断は必ず、見ている指標×タイミング×閾値に分解できます。
ある化粧品メーカーでは、新製品の初期投入量という最も属人化しやすい判断を、この逆算によって「過去の類似カテゴリの初動実績×テスター展開数から算定する」モデルに標準化しました。ベテランの勘の中身は、本人も意識していなかった参照構造だったのです。標準化の結果、新製品の初期欠品率は12.4%から3.1%まで下がりました。勘をルールにしても精度は落ちない──むしろ揃うのです。
手順②──「定型」と「例外」を分け、定型だけを表にする
棚卸しした判断は、2種類に仕分けます。定型判断──条件が揃えば誰がやっても同じ結論になるもの。経験上、判断の7〜8割はこちらに落ち、「指標がこの閾値を超えたらこのアクション」という対応表にできます。例外判断──市況・商談情報・複合的な経験則が絡むもの。こちらは無理にルール化せず、「誰が・どの会議で・何を材料に決めるか」という判断の場を定義します。
失敗は二方向にあります。全部をルール化しようとして例外に押し潰されるか、「結局は経験だ」と全部を暗黙のまま残すか。線を引くこと自体が設計です。ある洋菓子メーカーでは、多チャネル(外商・催事・EC・法人)のピーク時在庫配分という、社内で最も「あの人しか捌けない」とされていた判断を、チャネル別需要特性の整理と配分ロジックの文書化で組織の判断に転換しています。

手順③──移行は「本人をルールの番人にする」
最後が最も繊細な工程です。ルール化を本人の頭越しに進めると、本人にはこの取り組みが「自分を不要にする作業」に映ります。そうなれば協力は得られず、協力なしに手順①の棚卸しは成立しません。設計すべきは役割の移行です。本人を「判断する人」から、「ルールを監督し、例外を裁き、ルール自体を改訂する人」へ──つまり役割を一段上げる形で移します。週次の判断の場では、定型判断はルール表に基づいて若手が運用し、本人は例外案件とルールの改訂を担う。判断が組織に残り、本人の経験は最も価値の高い部分(例外と改訂)に集中する形です。
自社の属人化を測る、3つの質問
自社がどの程度属人化しているかは、次の3つの質問で確かめられます。
- 主要カテゴリの発注量を、担当者が1週間不在でも、いつもどおり決められますか。
- 直近の追加発注の判断を、「どの数字が、いくつだったから」と本人以外が説明できますか。
- 発注・投入の判断基準は、本人の頭の中以外──文書やルール表──に存在しますか。
3つとも「はい」と言えない場合、判断はすでに個人に固定されています。放置するほど棚卸しの対象は増え、移行の難度は上がります。着手のタイミングは、本人が在籍しているうち──つまり今です。手順①の棚卸しには、判断の土台になる数字──SKU別の売上・在庫・粗利を1枚に揃えた表──が要ります。売上在庫診断「URESUJI」はその表を1日で作る診断です。棚卸しからルール設計・判断の場の定着までは、需給・在庫プロセス改善コンサルティングが伴走します。まずは30〜60分の無料ヒアリングからご相談ください。
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